「わかってくれない」という悩みが軽くなる|『キノの旅』のタメになる話

人間関係の苦しみには、大きく分けて二つあります。

それは「自分の気持ちをわかってもらえない」苦しみと、「相手の気持ちがわからない」苦しみです。

「自分の気持ちをわかってもらえない」から苦しい

「自分の気持ちをわかってもらえない」苦しみの声をいくつか挙げます。

部下は「上司に理解がない。もっと話をわかってくれる上司だったらなぁ」とこぼし、
上司は「新入社員の○○とは、会話が成り立たんよ。こちらの思いを全然わかろうとしないんだから…参ったよ」と愚痴る。

夫は「妻は俺の努力をちっともわかってない。どれだけ苦労しているかなんて、考えたことがないんだ」とぼやき、
妻は「主人はいつも自分のことばかり。何聞いても面倒くさそう」と嘆く。

このように「自分の気持ちをわかってくれない」ことに苦しんでいる人は多くあります。

「相手の気持ちがわからない」から苦しい

反対に、相手の思いが分からずに悩んでいる人もあります。

これはあるお母さんの悩みです。

「中学生になった息子がほとんど口をきかなくなりました。何か声をかけても、『うるせえ!』と返されます。会話がなく、何を考えているのかわかりません。
思春期だと思って、そっとしておくのが良いのかとも思いますが、心配です」

また好きな異性の何気ない仕草や一言に「あの人は私のことをどう思っているだろうか」と、相手の本音が知りたくて悩んだという方もあると思います。

お互い分かり合える世界になれば幸せになれるか?

私たちは「自分の気持ちをもっとわかってもらえれば」「相手の考えていることがもっとわかれば」深い人間関係が築けて、幸せになれるのにと、さまざまな場面で思っています。

しかし本当にお互いわかり合える世界は幸福なのか、考えさせられる小説がありました。

『キノの旅-the Beautiful World-』という、シリーズ770万部を超えた人気小説です。

キノという旅人が、いろいろな価値観を持つ国を訪れ、そこの国民と関わっていく、1話完結のストーリーです。

それぞれに教訓が秘(ひ)められていておもしろかったのですが、その中で、お互いわかり合える世界の苦悩を描いた話がありました。

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キノは「人の痛みが分かる国」を訪れました。

その国は、レストランにも市街にも誰一人おらず、機械だけが動いています。

滞在して3日目の朝、ようやくキノは住人の男性と出会いました。

その男性は明らかな対人恐怖症で、人と会うのを恐れていました。

やがておずおずと男性は「君は、私の思っていることがわからないのか?」と妙なことを尋ねます。

その男性が語るには、その国の人は皆、対人恐怖症で、それぞれが一人ぼっちで住んでいるというのです。

なぜそうなったのか、そのいきさつはこうでした。

その国に、会話を交わさなくても相手の考えていることがわかる薬が開発されたのです。

これでもう「自分の気持ちをわかってもらえない」という苦しみはない。

「相手の気持ちがわからない」という悩みもない。

皆わかり合えて幸せになれるんだと国民は喜び合い、全員がその薬を飲んだのです。

ある男性は薬を飲んだその一瞬に、片思いだった女性が、実は自分のことが好きだったことが分かりました。

女性にも自分の想いがすぐ通じ、悩むことなく、すぐ結婚できたのです。

ところが天にも昇る幸福感は一日も持ちませんでいた。

一緒に住むようになり、男はすぐにとんでもない薬だったことが分かるのです。

お互いの心は何でも通じてしまいます。

「この料理、まずいな」

「この人のこういうところ、イライラする」

「こんなこと言う人だったのか」

「結婚するんじゃなかったな」

オブラートに包んだ会話ができません。

思ったままがお互いに通じてしまいます。

すぐに結婚生活は破局をむかえてしまいました。

その国では、事故現場で死にかけている人の心が周囲の人たちに伝わって発狂(はっきょう)したり、政治家がお互いにいつか裏切ろうとしていることを知って殺し合いになりました。

国中がパニックとなり、住人はお互いの思いが伝わらないよう、距離を置き、引きこもって生活するようになったのです。

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考えさせられる話です。

自分の気持ちをわかってほしい、相手の気持ちを知りたい、と誰しもが願うことなのに、それがかなっても幸せになれない現実をあらわにした内容でした。

みんなが常にきれいな心だけを持っていれば良いのですが、私たちは誰にも知られたくない醜(みにく)い心を持っています。

親にも妻にも子供にも知られたくない心が確かにあります。

また知りたくなかった相手の心まで知らされるとしたら、それでも今まで通りつきあっていけるでしょうか。

私たちは、お互いの心がわかり合えず悩むこともありますが、逆にわかってしまったことで嫌な心が見えて苦しむこともあります。

振子(ふりこ)のように、どちらに振られても悩むのが、人間です。

どうしたら人間関係の中で生きる私たちがお互い幸せになれるのか。その道を徹底的に探究したのが仏教です。

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